書籍名:「働き方」の教科書
著者:出口 治明
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ー書籍からー
■50代
50代はどのようなスタンスで仕事をするべきなのでしょうか。
役員レースに残っている人は、そのまま猛進していけばいいと思い
50代になって心掛けるべきことは、次の世界を担う若い世代に何 をバトンタッチするのかということを真剣に考えることだと思いま す。30年前後働いてくれば、内外のさまざまなことや問題点など はほぼわかっているはずです。企業を少しでもよくしていくために 、若い世代にどういう仕事をしてもらいたいのか。そのことをよく 考えて、伝えて頂きたいのです。そういう意味では、50代は「遺 書」を書く時期になったのだと言えるでしょう。
企業に残って遺書を書き、それを次の世代に伝えるという選択肢以 外に、50代には起業という選択肢があると思います。起業という と、それまで自分が積み重ねてきた仕事と異なる分野でチャレンジ しなければならないと考える人もいるようです。起業とは、未知の 分野でなければならないという固定観念がどこかに存在するからで しょう。
仕事は人と人、経験と経験の組み合わせです。今、あなたが何気な くやっている普通の仕事を必要としている人は、実は世の中に山ほ どあるのです。
■アンヒューマンとヒューマン
僕がロンドンに赴任していたとき、スイス銀行とスイスユニオン銀 行が合併することになりました。当時、スイス銀行の従業員300 0人、スイスユニオン銀行にも3000人のスタッフがいました。 オスペル(責任者)は、合併で6000人になった従業員を300 0人に絞り込む決断をしました。
それを聞いて、僕は憤慨しました。
「そんなのはアンヒューマンだ。解雇された従業員はどうなるのだ ?」僕の言葉を聞いたオスペルは、僕以上に憤慨してまくしたてま した。「ミスターデグチ、アンヒューマンという言葉を取り消して もらいたい。むしろ、私のやろうとしていることこそヒューマンな んだ」
オスペルは、こう続けました。
「僕は日本企業のように、窓際族として飼い殺しにするほうがアン ヒューマンだと考えている。ミスターデグチ、あなたはヒューマン の言葉を取り違えている。人間は給料を貰えて名刺さえあれば人生 が楽しいわけじゃない。自分に向いたやりたい仕事を最前線でやる からこそ楽しいんだ」
ーここからー
人事の仕事をしているので感じるのかもしれませんが、キャリア研 修って何のためにあるでしょうか。私は20代と50代のキャリア研修は根本から違っていると思って います。
バブル崩壊前の日本にキャリア研修は殆ど存在していませんでした 。逆に言えば、キャリアについて考える必要が無かったのです。で は21世紀になってキャリア研修が必要になった背景と理由はなん なのか?
背景は、少子高齢化と経済の低成長です。高度経済成長時代は多 くの会社が右肩上がり、人口もどんどん増えてマーケットも拡大、 それに伴い管理職のポストが足りず、普通に働けば管理職になってそこそこの生涯年収を稼ぐことができました。
つまりキャリアを考えなくても終身雇用という制度によって、ただ 普通に頑張れば誰もが描く普通の幸せを得ることができたのです。
しかしながら、バブルが崩壊し、かつ、少子高齢化になり、経済が 停滞している昨今では、その普通の幸せを得ることができない人が 増えたのです。
それを表した言葉として、いい得て妙だなぁと思ったのが「サザエ さん一家は勝ち組みだ」という言葉です。
サザエさん一家は普通の幸せ家族をモデルにしていたはずなのに、 その幸せさえ掴むことが出来なくたったこを表している言葉で、と ても衝撃的ですよね。
ここ10年でビジネスパーソンの年収は15%低下しました。年収 400万以下の人が半数以上を占めている状況です。
企業は嘗てのように会社に骨を埋めてくれれば、それなりの待遇を 準備することができなくなったのです。私が言わなくても皆さんよ くご存じなことですよね。
だから、キャリアというものを仕事だけで捉えるのではなく、人生 で捉えて考えくださいという研修が増えたのだと思っています。
しかしながら、この一番大事な点をオブラードに包んでキャリアを 考えてというから何か歯に物が詰まったような違和感を私は感じて います。
オスペルさんの言葉通り日本企業は50代以降(シルバー含む)を 窓際族として飼い殺しにしていますが、人間は給料を貰えて名刺さ えあれば人生が楽しいわけじゃない。自分に向いたやりたい仕事を 最前線でやるからこそ楽しいんだと私も思います。
昨年の12月に58歳の大先輩が自己都合で会社を辞めました。な んで辞めるんですかと聞いたら、このぬるま湯状態に嫌気がさした から辞めるんだよと仰っていました。
50歳を過ぎるとリスクが減って来るんだと実感した言葉でした。 この方の場合は既に子供も社会人になり、家のローンもない。つま り、リスクが嘗てより大幅に減っていた為、会社に縛り着くよりも 一度きりの人生を後悔しないために退職したのです。
50代のキャリア研修では、これからの人生をどうしますか?とい う研修が多いですが、私の考えでは、今までの人生を振り返り、次 世代の人達に何を恩返しすることができるかを考えた方がよいと思 っています。
その恩返しが自社でできるならそれで良し。それが出来ないなら転 職や起業も視野に入れていいのではと思っていますが、皆さんは如 何ですか。
会社はそのような恩返しをしたい人達に責任と権限を与えて欲しい のです。責任と権限は別段、地位や役職だけではなく、プロジェク トもあれば、勉強会などもあります。またはご意見番や参謀でもい いのではないでしょうか。
今回はちょっとディープな話となってしましましたが、とても重要 なことで目をそらしてはいけない点だと思ったので、書かせて頂き ました。
あなたはキャリアをどのように捉えていますか。